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『中小企業、真の生存競争時代へ?』【VOL0028】

こんにちは。

福岡県中小企業振興センター専門家派遣プロジェクトマネージャ―の林です。

 

先日、政府は昨年度に引き続き『成長戦略フォローアップ』を閣議決定し、日本の成長戦略の施策およびKPIを公表しました。

 

わたしたちに特に関係のある中小企業施策について、昨年度までは従来からある方針の延長線上にある施策が示されていたのですが、今年度は今後の大きな方針転換の予兆と思わせる内容が示されました。

 

これは先月の日本経済新聞(7/17)の記事で取り上げられていたのですが、あまり話題になっていないように思いますので、私見も交えてご紹介いたします。

 

まず、成長戦略の基本となる考えは、社会および大企業を含む経済主体の“生産性向上”です。

 

そして、中小企業に関し従来からある方針というのは、日本の産業を下支えする重要なプレーヤーと位置づけ、中小企業の社数を維持するということです(ちなみに中小企業者数は約360万社、全事業所の99.7%を占める)。実際、成長戦略フォローアップ2019年度版には企業の新陳代謝を進めるなかで「開業率が廃業率を上回る」ことがうたわれていました。

 

しかし、2020年度版では上記の文言は削除され、代わって「事業規模の拡大」や「中堅企業以上へ成長」という方針が示され、具体的な施策(法整備等)にも言及されています。

 

これらをどう読み解くか様々な意見があろうかと思います。ただ、冒頭でこれがあまり話題となっていないと述べましたが、ブログなどであえて話題にしている方々の多くはデービッド・アトキンソン氏の提言に沿ったものだろうと指摘しています。氏は、金融アナリスト等を経て、現在㈱小西美術工藝社の社長を務めています。

 

氏の提言はネット上で記事が読めますので詳細は紹介しませんが、概要は「日本は生産性が低いゆえに賃金が上がらない」「日本の生産性の低さは中小企業の多さにある(“規模の経済性”という経済原理に反する)」「中小企業の統合をはじめとする企業の大規模化が不可欠である」というものです。

 

確かに一理ある指摘かと思います。わたしも専門家派遣の担当として、業務において、中小企業支援施策そして企業とこれを取り巻く利害関係者の期待が“成長ではなく延命”“自立ではなく依存”になっていないか、と時折気になることがあります。

 

もちろん、氏の指摘は複雑な経済社会の一側面にすぎないのでしょう。また、氏の論には誇張や恣意的な資料引用などが散見さるように思われますので、慎重に読み解く必要があります。

さらに言うなら、文化的背景の異なる特定の方の意見に一国の政策が右往左往させられているとすれば、それこそ国全体が依存体質に陥っているのかもしれません。

 

とはいえ、ウィズコロナからポストコロナへと向かうなかで、現在のようにすべての企業を救うというような施策は打てなくなるでしょう。

 

わたしは、2009年に施行されたいわゆるモラトリアム法のような状態がここまで続いてきて「中小企業には改革と成長の機会を十分に与えた」と考え、そこにコロナ禍が訪れたことを受けて、数年後には中小企業政策が誰の目にも分かるかたちで大きく舵を切られる可能性があると読み解きました。

 

そして、当然、支援者として活動するわたし(たち)もトリアージにさらされることでしょう。

そのとき救うに値する者として選別されるでしょうか。

  

数年後を見据えて、わたしたちが“いま”何をすべきなのか考えさせられる記事でした。